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[書評] ルシオ・デ・ソウザ/岡美穂子 著, 大航海時代の日本人奴隷

異端審問で母国ポルトガルを追われたユダヤ商人ルイ・ペレスと、奉公人→奴隷→自由民となった日本人ガスパール・ハポンのインド/マカオ/長崎/マニラ/メキシコを掛ける安土桃山時代末期の物語(前半)
2014年以降に研究された内容。鎖国前の日本史と世界史のミッシングリンクが解消できた。 大航海時代の奴隷貿易、信長のアフリカ系家臣の弥助、天正遣欧少年使節、伴天連追放令(伴天連=padre=神父の意)、文禄・慶長の役(朝鮮出兵)、鎖国までの全てがつながっていることを理解できる。(後半)
https://www.chuko.co.jp/zenshu/2021/01/110116.html

[書評] レオン・ヘッサー著, ノーマン・ボーローグ「緑の革命」を起した不屈の農学者

1940年代から1960年代の農業革命に関する話。遺伝子組替え技術以前の品種改良法、各国の食糧危機をどのように乗り越えたか、また継続する人口増大に対する国際協力の必要などを理解できる。
https://www.yushokan.co.jp/%E5%88%8A%E8%A1%8C%E6%A1%88%E5%86%85-1/%E4%BA%BA%E6%96%87-%E6%AD%B4%E5%8F%B2-%E6%B0%91%E4%BF%97-%E5%AE%97%E6%95%99-%E6%80%9D%E6%83%B3/%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3-%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B0/#gsc.tab=0

[書評] 田口善弘著, 生命はデジタルでできている 情報から見た新しい生命像

分子生物学の知識更新に最適な本かも。ゲノム配列で機能しているのは一部で、機能していない部分が多いと誤解していたが、重要な役割があるというのが衝撃でした。
また、生命というロバストなシステムを解明するにはどのような手法があるのか、研究が進むにつれ注目されるポイントがどう変化しているのかなど、学びが多い。分子生物学の今後の進展が楽しみになる。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000341771

[書評] マルクス・ガブリエル著 つながり過ぎた世界の先に

マルクス・ガブリエル著 「つながり過ぎた世界の先に」を書評する。https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84905-8

全体的な評価としては☆3/5というところだ。

構成に関しては、PHP新書の世界の知性シリーズなので、著者のマルクス・ガブリエルに対して日本人のインタビュアー2名が質問した内容を編集、翻訳した内容となっている。会話をもとに書き出しているので、文章としての稠密さは無いが、講演録のように気軽に読みこなすことが可能となっている。

内容に関しては、新実在主義・倫理資本主義を掲げる著者からみてコロナ禍後どのような世界になるべきかという主張がされている。
新実在主義とは端的に言ってしまえば、物事をバーチャルな分類で問題を単純化せず、大きな主語を使わないで物事を考えるということかと思う。「日本人は〇〇で、ドイツ人は××」等の雑な議論をしたところでその例外もあるし、一括りにしてはいけないよというような考え方だ。
倫理資本主義とは資本主義的な仕組みを利用して、倫理的に正しいと活動に対して資本が集まるような仕組みを作るという主義である。
著者の新実在主義の眼鏡で評価すると、コロナ禍に直面したトランプ政権という構図はポストモダニズムの限界として現れるべきして現れたと考えられる。仮にこれが感染症でなくとも、トランプでなくともポストモダンの国では、ソーシャルメディアやフェイクニュース等で似たような禍は起きたのではないかと捉えている。
また、倫理資本主義に関してはEU諸国内の比較を行い、ドイツは外出・屋外活動等は制限されない、倫理的に許容されるロックダウンを行ったのに対して、スペイン・フランスは外出自体を禁止とする倫理的に許されないロックダウンを行ったことにより失敗したのではないかと分析している。
また、著者自身は倫理資本主義が今後は主流になると予測しており、彼自身が継続可能な観光事業にどのように参加しているのかも紹介している。

著者の主な主張を挙げると下記のような内容になる

  1. ポストパンデミックでは倫理資本主義が主流となる。
  2. 新型感染症対策で倫理に基づいた決断をした国が比較的対策がうまくいっている。
  3. 人種問題の本質はステレオタイプ思考なので、新実在主義的な思考法が必要となる。
  4. 基本に立ち返って統計的世界観から抜け出して、理由律的に「何故にこうなったのか」ということを思考すれば良い。

感想としては、私自身が哲学者の本を読み慣れてはいないのでロジックの組み立て方や本人の体験談に関しての記載等で鼻につく部分はあったが、基本的に主張していることは極めて真っ当で、コロナ禍で皆が感じていることを上手く言語化されているように思えた。私のように哲学慣れしていない人がコロナ禍を哲学的にどうやってとらえるか考えるキッカケとしては良い本だと思う。ただ、具体的な方策等は無いので直ぐに実用できるような内容でないことには注意していただきたい。