マルクス・ガブリエル著 「つながり過ぎた世界の先に」を書評する。https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84905-8
全体的な評価としては☆3/5というところだ。
構成に関しては、PHP新書の世界の知性シリーズなので、著者のマルクス・ガブリエルに対して日本人のインタビュアー2名が質問した内容を編集、翻訳した内容となっている。会話をもとに書き出しているので、文章としての稠密さは無いが、講演録のように気軽に読みこなすことが可能となっている。
内容に関しては、新実在主義・倫理資本主義を掲げる著者からみてコロナ禍後どのような世界になるべきかという主張がされている。
新実在主義とは端的に言ってしまえば、物事をバーチャルな分類で問題を単純化せず、大きな主語を使わないで物事を考えるということかと思う。「日本人は〇〇で、ドイツ人は××」等の雑な議論をしたところでその例外もあるし、一括りにしてはいけないよというような考え方だ。
倫理資本主義とは資本主義的な仕組みを利用して、倫理的に正しいと活動に対して資本が集まるような仕組みを作るという主義である。
著者の新実在主義の眼鏡で評価すると、コロナ禍に直面したトランプ政権という構図はポストモダニズムの限界として現れるべきして現れたと考えられる。仮にこれが感染症でなくとも、トランプでなくともポストモダンの国では、ソーシャルメディアやフェイクニュース等で似たような禍は起きたのではないかと捉えている。
また、倫理資本主義に関してはEU諸国内の比較を行い、ドイツは外出・屋外活動等は制限されない、倫理的に許容されるロックダウンを行ったのに対して、スペイン・フランスは外出自体を禁止とする倫理的に許されないロックダウンを行ったことにより失敗したのではないかと分析している。
また、著者自身は倫理資本主義が今後は主流になると予測しており、彼自身が継続可能な観光事業にどのように参加しているのかも紹介している。
著者の主な主張を挙げると下記のような内容になる
- ポストパンデミックでは倫理資本主義が主流となる。
- 新型感染症対策で倫理に基づいた決断をした国が比較的対策がうまくいっている。
- 人種問題の本質はステレオタイプ思考なので、新実在主義的な思考法が必要となる。
- 基本に立ち返って統計的世界観から抜け出して、理由律的に「何故にこうなったのか」ということを思考すれば良い。
感想としては、私自身が哲学者の本を読み慣れてはいないのでロジックの組み立て方や本人の体験談に関しての記載等で鼻につく部分はあったが、基本的に主張していることは極めて真っ当で、コロナ禍で皆が感じていることを上手く言語化されているように思えた。私のように哲学慣れしていない人がコロナ禍を哲学的にどうやってとらえるか考えるキッカケとしては良い本だと思う。ただ、具体的な方策等は無いので直ぐに実用できるような内容でないことには注意していただきたい。